負荷分散   樋口恭介


フェード・イン。プレゼンテーションボタンが押下され、スクリーンに投影された動画が再生される。
画面には三人の男。一人は通行人。あとの二人は工事現場の作業員。
通行人が画面に背を向け、画面の奥に向かって歩き始める。静止する作業員。一人は画面に背を向け、一人は画面正面に向かって立ち、通行人を挟む格好。正面の作業員が話し始める。
「この先は通行止めだよ」と作業員。
「どうして」と通行人。
「見ればわかるだろ、工事中なんだ」
「工事はいつ終わる?」
「さあ、わからんな。でもしばらくは続く。終わらないかもしれない」
「工事はいつから始まったんだ?」
「さあ、わからんな。ずっと前からやってる。気づいたときにはやってたんだ」
「なんの工事をしてるんだ?」
「さあ、わからんな。でも何かの工事だろうな」
「あんた、なんでここにいるんだ?」
「見ればわかるだろ、工事中なんだ。工事をしてるんだよ。作業員なんだ」
「あんた、もしかして人間か?」
「そうだよ」
「なるほどな。どうりで何もわからないと思ったよ。人間なら仕方ないな。人間は与えられた役割をこなすだけで融通がきかないから。なあ、どこかに質問対応できるアンドロイドがいるだろ、そいつに会わせてくれ。アンドロイドはどこにいる?」
「さあ、わからんな。でもどこかにはいるよ、たぶんな。だからほら、自分で探してみな」

フェード・アウト。動画の再生は完了し、プレゼンテーションは終了する。
「以上が弊社の負荷分散アンドロイドの代表的な機能になります」ナレーターが語り始める。「こうして弊社の負荷分散アンドロイドは問い合わせ者をふるいにかけ、真に問い合わせが必要な問い合わせ者のみ抽出することで、工事現場における問い合わせ対応業務にて発生する、全体工数の削減に寄与することができるのですよ」





樋口恭介
SF作家。『構造素子』で第五回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞